オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
よく初対面の相手にそんな私事の相談ができるな……と呆れてしまう。コミュ力が高いと言えばいいのか、図々しいと言えばいいのか。……どっちもかな。
さっき、私たちにしたのと同じように相談する麻田くんを眺めながら卵スープを飲んでいると、隣に座る工藤さんが小声で言う。
「土曜日、帰りのバスのなかで篠原と松浦さんが話してたこと、少し聞こえちゃったんだけど。篠原の秘密、バレちゃったみたいね」
横を見ると、工藤さんは視線をこちらに向けることもなく、オムライスを食べていた。
土曜日の時点でもう私が加賀谷さんを好きだってことを、松浦さんにバレたということを知っていたっていうのに、このタイミングで話を持ち出した工藤さんに、ふっと笑みがもれる。
朝だって更衣室で一緒になったし、話すタイミングなんていつでもあった。それなのに今まで黙っていてくれた部分にホッとする。
こうやって、私の内側に進んで踏み込んでこないところがとても好きだと思う。
今だって、松浦さんがこうして相席してこなかったらこの話はしなかっただろう。
私も工藤さんにならい、小声で答える。
「そうらしいです」
「それ、大丈夫なの? 見る限り、口がすごく軽そうなんだけど」
「私もそこが心配なんですけど……でも、とりあえずは大丈夫かなって今思いました」
さっき松浦さんは〝友里ちゃんと友達〟みたいなことを言っていた。
ということは、まだ私をゲームの対象として見ているってことなんだろう。だとすれば、進んで私に嫌われるようなことはしないハズだ。
つまり、加賀谷さんへの片想いを周りにばらすようなことはしない。
そう考えると、ずっと私をターゲットにしていてくれた方が、秘密にしておいてくれるだろうしこちらとしては助かるな……と一瞬考えてから、すぐにその考えを払い落とした。
ダメだ。松浦さんに付きまとわれるなんて面倒くさい。