オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「――で、それを話したら篠原さんと工藤さんは、ずっと我慢し続けるか別れるしかないって言うんすよ。ひどくないっすか?
こういう話って普通、女性はキャッキャしながら楽しそうに話すのに、冷めた顔して俺の相談なんてまともにとりあってくれないんすよ」
ひと通りの説明を終えた麻田くんが、まるで私たちを悪者みたいに非難する。
お酒も入っていないのに、先輩目の前によくここまで言えるなぁとは思うものの、まぁ、嘘ではない。
どうでもいいなと特に弁解もせずに食事を進めていると、松浦さんは苦笑いを浮かべた。
「それってひどいの? 俺もそっち側の意見なんだけど」
「え」
「だって、彼女に何か言って傷つけるのが嫌ならその時点でもう我慢か別れるかしかないし。逆にそれ以外の解決方法ないんじゃない?」
隣で真顔の工藤さんが「ほらね」と言うと、麻田くんは焦ったような顔で松浦さんを見た。
「ええっ、だって……そんな……」
「そもそも直して欲しい部分があるのに、それを言葉にしたくないって時点で積んでるし」
一拍空けたあとで、松浦さんがわずかに口の端を上げて麻田くんを見る。
「麻田くんだっけ。麻田くんはさ、自分が悪者になりたくないだけだよ。彼女を批判したら麻田くんが悪者になっちゃうから。
でも、他人が一緒にいるんだからそこになにかしら問題は発生するし、そしたら擦り合わせるなり歩み寄るなりしないとならないし、お互い無傷で終わるなんて無理だよ」
ピリッと、空気が張り詰めたみたいだった。
松浦さんの瞳は険しく歪められているわけじゃないのに、視線を向けられている麻田くんはまるで刺されたみたいにグッと息を呑む。
そんな麻田くんに、松浦さんはふっと笑みを浮かべて、目を伏せた。