オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「そういう問題無視してただ、楽しいことだけを共有する付き合いをしたいなら否定はしないけど。俺には、それは、幼稚園児が砂場で遊んでる〝おままごと〟にしか見えないかな」
ハッキリと言いながら箸を進める松浦さんに、工藤さんは「松浦さんって結構言うのね」とわずかに驚きの感情のこもった声をもらす。
私にしか聞こえないような小声に、黙ってうなずいていると、味方のいない麻田くんは一度口ごもり、それから「じゃあ、松浦さんだったらどうするんですか?」と眉を寄せた。
「彼女が料理下手だったら、ハッキリ〝まずい〟って言うんすか?」
「俺は誰かの手作りって時点で基本食べない」
なんでもないことのように、爽やかな笑顔でサラッと告げられた言葉に、たぶん松浦さん以外の三人が一瞬固まった。
「こういう、食堂とか飲食店とかプロが作ってるなら話も別だけど、素人が作ったものなんて、どんな場所でどういう風に作られてるかもわからないし、なにが入ってるかわからないし」
あまりにひどく思える発言に、室内なのにひゅう……と木枯らしが吹いたような錯覚に陥っているなか、固まる呪縛から最初に解かれたのは工藤さんだった。
「バレンタインとかはどうしてるんですか?」
工藤さんの言葉に、ハッとして呪縛が解かれる。
そうだ。学生時代からきっとモテてたはず……と思いじっと見ていると、松浦さんは「お礼言って受け取って誰かにあげちゃうかな」と笑顔で答えた。
「〝義理だよね。わざわざありがとう〟って先手打っておけば、大体の子は空気読んで引いてくれるから」
あまりに悪気なく語るものだから、それをひどいと思う私のほうがおかしいんじゃないかと思えてくる。