オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「でも、義理だとしても、もらったチョコを他の男にあげちゃうのはさすがに……」
私の頭を少しだけよぎっていた考えをそのまま口にした麻田くんに、松浦さんは「可哀想って言いたいんだろ?」と苦笑いを向けてから視線を料理に戻す。
「〝相手が真剣だから〟っていう理由だけで、こっちも全部真剣に向き合って応える必要なんかないと思うけど。俺にとっては〝身に覚えのない好意〟も〝身に覚えのない悪意〟も一緒だよ。押し付けられたって困る」
食事を進めながら「どっちも迷惑でしかない」と言い切った松浦さんに、麻田くんは言葉をなくし、工藤さんは〝まぁそうかも〟という感じで小さくうなずいていた。
そして、私はというと――。
場を流れる微妙な空気を察してか、松浦さんは顔を上げると「あれ。まずいこと言っちゃったかな」と困り顔で笑いかけてくるから「別に」とだけ返し席を立つ。
工藤さんに、先に戻っていると伝え食器を返却口に戻し食堂を出たところで、後ろから肩を掴まれた。
強い力に驚いて振り向くと、真面目な顔をした松浦さんが立っていて、さらに驚く。
まだこの人のことはあまり知らないけれど、いつも余裕そうにヘラヘラしている印象だっただけに、こんな顔もするのかと思った。
食堂のなかからはガヤガヤと重なった会話が雑音として聞こえてくる。
通るひとの邪魔にならないようにと通路の端に寄ってから、再度松浦さんを見上げた。
「どうかしました?」
向き合うと、松浦さんは言いづらそうにわずかに眉を寄せ、自分の首の後ろあたりを触る。
「いや。友里ちゃんが傷ついた顔してたから」