オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
扉の横の壁に背中を預けている様子から、たぶん私を待っていたんだろう。
それがわかっても、相手をする気にはなれずに目を逸らして通り過ぎると、すぐに後ろから「え、無視?」という声と足音が追ってくる。
呑気な声色に、自己嫌悪からくるムカムカが加速するみたいだった。
「話したくない気分なんです」
自分でも、〝これはちょっと〟と思うくらい冷たい声が出た。
松浦さん相手だとしても、さすがにじわじわと罪悪感が湧き〝申し訳ないですけど〟と続けようとしたところで、「話したくないって、なんで?」と聞き返される。
見れば、キョトンとした顔があって、いらない心配だったかとひとつ息を吐く。
「今、自分の心の狭さに打ちひしがれて、その上、やさぐれてるんです。たぶん、誰彼構わず攻撃的な態度しか取れないので、松浦さんも構わらないでください。不快な気分になりますよ」
歩調を緩めずに態度悪く言っても、松浦さんは私のそんな様子なんて気にする素振りも見せずに隣に並んで「そうなんだ」と笑いかける。
松浦さんは洞察力が高い。だから、私の機嫌の悪さなんてもう気付いている。
それなのに、こうして遠慮なく……いい意味で言えばひるまずに話しかけ続けてくる部分が苦手だ。
たいていの人は、無表情な上、冷たい言葉を告げたら、苛立った顔だったり傷ついた顔だったりをして離れていく。少なくとも、機会は改める。
なのに松浦さんは、私の機嫌なんてお構いなしだ。
「心の狭さがどうかは俺にはわからないけど、友里ちゃんは心の余裕はあまりなさそうだよね。俺なんかの挑発にすぐ乗ってきたくらいだし」
へらっとした顔で言われ、無視しようかどうかを考えた末、口を開く。
「それは単に性格なだけですから、余裕があってもなくても挑発されたら乗ります」
ふん、とつんけんして言い切ると、松浦さんは苦笑いを浮かべた。