オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「俺だって、女の子オトすことだけ考えて過ごしてるわけじゃないよ。だからまぁ、自分のためかな」
自らのために、そんなにしっかりとした生活を送れるひとが、どうして恋愛だけあんな感じになってしまったんだろう。
腑に落ちないでいると、松浦さんが「そこまで信じられない?」と、クックッと喉の奥で笑う。
「失礼ですけど、ピカピカな部屋とか自立した生活を武器に女の子をオトすためって理由のほうがまだ納得がいきました」
「俺の評価ひどいな」
「でも事実ですから」と言い、ひと切れを半分にした出し巻き玉子を口に運ぶ。
ほんのりと出汁の味や甘みが口の中に広がると同時に、玉子がほろほろと崩れていく。その感動を噛みしめていると、松浦さんが私にメニューを差し出す。
「グラス空きそうだから。俺も頼むし、友里ちゃんもなにか選んで。ソフトドリンクなら最後のページにあるし、ノンアルコールも何種類かあるから」
気づけばもう、キウイサワーは数センチしか残っていない。
料理もおいしいし、キウイサワーの口当たりもいいしで、ついついハイピッチで飲んでしまったけど、アルコール度数ってどれくらいだったんだろう。
少し心配になりながらも、一番最後のページからウーロン茶を選ぶと、松浦さんがすぐに注文を済ませてくれる。
松浦さんも二杯目はソフトドリンクにしたようだった。
その途中で「甘いもの好き?」と聞かれるからうなずくと、松浦さんは「じゃあ、これもひとつ」と追加でなにかを注文した。
なんだろう……と思い、店員さんが離れたところで聞こうとしたけれど、松浦さんが話し出す方が先だった。
「さっきの家事の話だけど」
「ああ、はい」
「ポイント稼ぎしようって考えは本当にないけど、ただ純粋に炊事洗濯が好きだからってわけでもないかも。なんとなく、ちゃんとしなきゃっていう強迫観念みたいなものがある気がするから」
「強迫観念?」
「そう。洗濯も掃除も、完璧にしないとっていう考えが……いや〝考え〟は違うか。〝気持ち〟……でもないな」
ぶつぶつと考えだした松浦さんは、ひとしきり悩んだあと「ダメだ。上手い言葉が浮かばない」と笑う。