オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


本人はへらっとした緊張感のない顔をしているけれど……それが〝強迫観念〟という言葉が意味する症状の重さには比例していなくて、気持ち悪さが残った。

「強迫観念って、自分の意思とは関係なく、常に頭のなかにある感情のことを言うんですよね?」

箸を置いて聞くと、松浦さんは「そう。そんな感じ」とうなずく。

「俺は別に綺麗好きってわけじゃないけど、綺麗にしておかないとっていう潜在意識みたいなのがあって、そうしろって誰かに命令されてる気分になる感じ。まぁ、困るようなことじゃないからいいけどね」

明るい声で「これが〝誰か殴らなきゃ〟みたいな強迫観念だったらまずいけど」と笑う松浦さんを見て、〝あ〟と思う。

松浦さんのおかしな恋愛の仕方を思い出したからだ。

恋人のいる女の子だけをターゲットにして、自分に振り向いた途端に興味をなくすなんて、結構病的だ。
性質が悪すぎるし、第一、そんなことをしたところで松浦さん自身にもなにも得がないないし、なにも残らない。

それなのにそんなことばかりを続けているのは、もしかしたら――。

「〝一番じゃなきゃ〟っていう強迫観念も、松浦さんのなかにあったりしますか?」

何気ない疑問だった。
会話の流れから自然と出た言葉だ。

なのに松浦さんが一瞬ハッとした顔をするから、こちらまで驚いてしまう。

ピタリと止まった空気に、今までの和やかな雰囲気が瞬時に姿を消す。

きっと〝かもねー〟くらいの軽い反応が返ってくると思っていたのに、まるで核心でもついてしまったような顔をされ言葉をなくしていると、私が見つめる先で、松浦さんはすぐに笑顔を取り繕った。

「はは、そうかもね」

完璧な、綺麗な笑顔と明るいトーンの声。

それは今までの松浦さんで、それをきっかけに、一瞬だけおかしくなった雰囲気がすぐに元の心地よさを取り戻す。

「まぁ、その強迫観念のおかげで、今おいしいご飯を食べられているので、私的にはラッキーですけど」

さっきの事は、あまり触れられたくないことだったのかもしれない。

そう感じてわざと興味のない声を出すと、そんな私に松浦さんはふっと表情を緩めてから「ひとつ、聞いてもいい?」と話を切り出した。



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