オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「昨日の昼休みに、もう加賀谷さんに振られてる、みたいなこと言ってたけど。あれ、本当に?」

突然出てきた加賀谷さんの名前にギクリとする。

「本当は昨日のうちに聞きたかったんだけど、仕事が片付かなくて」

調子のいい笑みで「おかげで今日一日ずっと気になりっぱなしだった」と言う松浦さんに、そういえばそんな話をしたなと思い出す。

『私、もうとっくに振られてるんです。それでも好きでいるなんて、相手からしたら迷惑でしかないでしょうね』

一度振られているのに未だに好きでいることが理解できないらしく、不思議そうにしている松浦さんに「本当ですよ」と答えたところで、追加注文したソフトドリンクが運ばれてくる。

テーブルにジンジャエールとウーロン茶を置いた店員さんが、最後に「こちら、抹茶のチーズケーキになります」と黒い平皿を置く。

顔を上げると、松浦さんが「これ、おいしいから食べて欲しくて」と笑顔を向けていた。

だからさっき、甘いものが好きかどうか聞いたのか……と思いながら木製の小さいフォークを持ち、チーズケーキを一口サイズに切る。

口に入れると、濃厚なチーズ味のあと、ほのかに抹茶の風味が広がり、自然と「おいしい」という言葉がこぼれていた。

「よかった。ここは料理だけじゃなくてデザートもどれもおいしいから、迷ったんだけど。友里ちゃん、チーズ好きそうだったし今回はそれにしたんだ。
今度きたときは、抹茶のしらたまが入ったあんみつ食べてみて。それもおいしいから」

今日、食べたメニューにはチーズが使われたものが多かった。
それをおいしいと食べていたから、私がチーズが好きだと思ってこれを頼んでくれたんだろう。




< 56 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop