オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「企画事業部だって話だし、男に混ざってバリバリ仕事こなすタイプかと思ってたけど、あれはたぶん違う感じ。人事部長と寝たんじゃなのって思ったくらい」

企画事業部ってことは、松浦さんと同じ部署か。

はぁ、と重たいため息をついた工藤さんが「まぁ、そのうち戻ってくるから見てみればいいよ。イライラするから」と嫌そうに言った直後、フロアに麻田くんの大きな声が響いた。

「あれは無理っすよ。つーか、あんなん前代未聞でしょ」

顔の横で両手を天井に向けるというオーバーリアクションをとる麻田くんの後ろから歩いてくるのは、苦笑いを浮かべる加賀谷さんと……黒髪ボブの女性だった。

工藤さんのアイコンタクトで〝あれが金子さん〟だと確信する。

女性らしい身体つきをくねくねさせながら歩く金子さんの顔にはしっかりとメイクが施されていて、なかでもぷっくりとした唇に乗るグロスが目を引いた。

CMで見るのと同じくらいにぷるっぷるだ。

「篠原、薬用リップとか塗ってる場合じゃないんじゃない?」とボソッと言ってくる工藤さんに、なんとなく自分の唇に指を当てていると、加賀谷さんが言う。

「二重シャッターにしてんのに、うまいこと入り込むもんだなぁ。まぁ、自由に出入りできるわけじゃないから巣を作られる心配はないにしてもどうにかしないと」

「でも俺たちには無理でしょ。専門の人呼ばないと」

麻田くんが自分の席に座る。
一方の加賀谷さんは、デスク傍で立ったまま金子さんと向き合っていた。



< 62 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop