オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「いや、だからって俺に振られても困る。正直、今抱えてる仕事でいっぱいいっぱいだし、業者呼んで対応している暇はない。担当部署がわからないなら、総務だとか庶務あたりに相談……」

「だって私、総務部長も庶務部長も苦手なんだもん。だからお願い。ね?」

さっきから『だもん』と甘えた声を出す金子さんに無性にイライラしてしまうのは、私があんな風に甘えられないからだろうか。

またしても公私混同してしまっている自分に、気分がどんよりとしてきた時。

「加賀谷くんは顔も広いし、周りから信頼もされてるし、これくらいのことどうにでもできるでしょ? お願い」

横目で見てびっくりする。

金子さんの手がするっと加賀谷さんの手をすくって握るから、思わず目を見開いたまま固まってしまった。

だって手……手、握ってる……。


「――加賀谷さん」

ピシッと頭の奥で大きな音がしたまま、なにも考えることができなくなっていたけれど、工藤さんの声に我に返る。

視線を移すと、工藤さんが受話器を持ち上げたところだった。

「そういう内容なら多分、庶務ですよ。以前、倉庫のシャッターが故障した時に対応したのがそうでしたから、倉庫関連は庶務でどうにかしてくれるかと。知り合いがいるので、電話しておきますね」

加賀谷さんの返事を待たずに、工藤さんは繋がった内線相手に「あ、第二品管の工藤です」と告げる。





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