オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「倉庫にスズメが入っちゃったらしいんですけど、業者への連絡と対応お願いできますか? 今、企画事業部の金子さんって方が来てて、うちの部署でどうにかしてくれって言うんですけど、無理なので……ああ、そうなんですね。助かります」
手元のメモにさらさらと何かを書き、電話を終えた工藤さんは、立ち上がるとそのメモを金子さんに差し出した。
「庶務は今、忙しくてそんな暇ないらしいので、業者の連絡先だけ教えてくれました。これどうぞ」
メモを受け取り「え……」と戸惑っている金子さんなんて気にする素振りも見せずに、工藤さんが続ける。
「ご自分で受けたのなら、最後まで見届けるべきでしょう。なんでもかんでもうちの部署や庶務に流すから、Eコースの人間は現場を知らない人ばかりになっちゃって、結果、平気で無茶ぶりするようになるんですよ」
最後に「上目指してるならいい経験になるんじゃないですか」と言い席についた工藤さんに、麻田くんが「俺もそう思いまーす」と明るい声で賛成する。
その様子に、加賀谷さんはクックッと喉の奥で笑ったあとで「そういうことだ。悪いな、金子」と謝り……金子さんはというと、気に入らなそうに眉を潜めて、グロスの乗った唇をぷるぷると震わせていた。
結局、金子さんは自分で業者を呼び対応したらしかった。
麻田くんが野次馬に行ったらしいけれど、お昼すぎに業者がきていたってことだから時間から見て、スズメはもう外に出ただろう。
金子さんが怒りの籠ったヒールの音をカツカツと響かせてフロアから出て行ったあと、麻田くんは『工藤さんの今の態度、痺れたっす!』とホクホクした顔をしていた。