オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
だけど。
金曜日、話を聞いてもらった感じだと、特に流して適当に聞いているような印象も持たなかったけどなぁと思いながら、松浦さんの整った横顔をチラッと見上げる。
鼻歌でも聞こえてきそうだ。
「もしも今、松浦さんを好きになった振りをして関係を持ったあとで、目標を達成できたって優越感に浸ってる松浦さんを〝松浦さんなんか好きになるわけない。騙されてしっぽ振って馬鹿みたい〟って指さして笑ってやったら少しはスッキリするんですかね」
淡々と話すと、松浦さんは「ははっ」と笑う。
「何も言わずにそれを実践されたら、してやられたって感じで、さすがの俺も若干ショックかもね。完全に気持ちを俺に向けてからじゃないと意味ないのに手出しちゃったら、俺のポリシー破っちゃうことにもなるし」
終始浮かべている余裕を打ち崩したくて言ったのに、見事失敗に終わり、嫌な気分になったのは私の方だった。
無表情で態度が悪いなんて結構最悪だと思うのに、松浦さんには敵わないらしい。
さすが色んな女の子を落としてきただけあるなぁと感心していると、横から顔を覗き込まれる。
「でも、実際にそうしないところが友里ちゃんらしいよね。今の、俺に言わずにそうすれば騙してスッキリもできただろうに」
最後、「真面目だよね」と付け足し、ニッと口の端を上げた松浦さんにムッとしながらも何も言わずに目を伏せる。
冬の外気に晒された指先が冷たくてジンジンし始めていた。
両手を重ね、そこに息を吐きかけ暖をとると、周辺の空気が白く染まり、そしてすぐに消える。
こんなに冷たくなっても、さっきの松浦さんの手の感触は残っていた。