オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


松浦さんと同じように、指先が赤くなっている自分の手を眺めていて……この手で、加賀谷さんに触れることはないんだろうなとぼんやりと考える。

だって〝同僚〟だから。

「友里ちゃん?」と不思議そうな声をかけられ、ゆっくりと手を下ろした。

「なんでもありません。手袋、そろそろ持ってきた方がいいかなって考えてただけです」
「じゃあ、繋ぐ? ……って、そんな嫌そうな顔しなくても」

クックと喉で笑った松浦さんが、じっと私を見て続ける。

「ひとつ聞いていい? 友里ちゃんは、なんでそこまで自分の恋を否定するの?」

「……は?」と、やや遅れて返すと、松浦さんが説明する。

「誰かを好きになることは悪いことじゃない。どれだけ想おうが友里ちゃんの自由だろ? なのに、それを自分自身で否定して認めてやれなかったら苦しいだけ――」

「松浦さんの言う通り、私が加賀谷さんを好きになるのは自由です。想いが届かなくて苦しい思いをするのだって全部私自身のせいだって受け止められるなら、認めて開き直ったほうが楽かもしれない。
〝こんなに好きなんだから仕方ない〟って」

ゆっくりと前を見て続ける。

「でも……私が加賀谷さんに対してドキドキしたり、切なくなったりするたびに、加賀谷さんを裏切ってるような気持ちになるんです」

「裏切る?」

不思議そうな声を返され、唇をキュッと結んでからそっと開く。





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