オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「あれが事実なら、モテるひとって不幸なんでしょうか」
麻田くんの向こう側にあるテレビを眺めながら言うと、工藤さんは「そうは思えないけどね」と答えた。
「単純に見た目がいいってだけでモテるタイプだって絶対にいるもの。同じレベルの外見をしたひとの場合に限られるんじゃない?
幸せオーラ全開の麻田と、不幸のどん底の麻田だったらどっちがモテるかって話でしょ」
「なるほど」とうなずいていると、工藤さんが「それより」と話題を変える。
「午前中に言ってたやつ、いい案だよね。一年間の仕事内容記録するやつ」
昨日、松浦さんにもらったアドバイスに従い、今日の朝一で加賀谷さんに相談した。
これだけの仕事が回ってきているっていう事実をこの一年で記録していけば、年度末、それを武器に戦えるんじゃないかって。
細かい雑用はどこの部署だってしたくないのは一緒だ。だから助け合ってこなしていくにしても、第二品管ばかりがそれを請け負うのはおかしい。
それをいちいち、口で言っていてもその場で終わってしまうから、だったら書類に残して抗戦を……と話すと、加賀谷さんはすぐに賛成してくれて、さっそく今日から仕事内容を記録していくことになった。
「うちみたいな部署が我慢するしかないってどこか諦めてたけど、篠原の提案を聞いてその通りだと思った。それに、書面だと上も無視できないだろうしね」
うんうん、とうなずきながらの工藤さんの言葉が、まるで私を褒めてくれているようで素直に受け入れられず、曖昧な笑みをこぼす。
だって、アドバイスしてくれたのは松浦さんだ。
私だけなら思いつかなかった。