オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「用事はすんだので、これで」
くるりと背中を向けて歩き出すと、松浦さんがすぐに隣に並ぶ。
駅まではどうせ同じ道だ。
こうして並んで歩くことにももう慣れてしまって、当たり前のように一緒に帰ろうとする姿に注意もせず足を進めていると、松浦さんが缶コーヒーを開ける。
カシッという、金属が開く耳触りのいい音に、横目で眺める。
「ブラックにしちゃったけど、大丈夫でしたか?」
コーヒーの好みは知らないから、自販機の前で少し悩んだ。
一緒にご飯を食べたとき、甘いものも大丈夫そうだったから、微糖だとかがいいのかなとか。
でも、下手に挑戦するよりも、ブラックのほうが無難だろうと判断して決めたのだけど……嫌いじゃなかったかな。
わずかな不安を抱きながら見ていると、松浦さんは缶コーヒーをひと口飲んでからニコッと笑う。
「大丈夫。コーヒーは基本ブラックだから」
「そうですか。結構好みが分かれるし悩んだんですけど、よかったです」
ほっとしていると、「友里ちゃんの好みは?」と聞かれる。
「ブラックも飲めますけど、カフェオレとかのほうが好きです」
「ああ、そんな感じするね。甘いのと、甘さ控えめのだったらどっちが好み?」
「そのときによりますかね。デザートと一緒に飲むなら控えめがいいです。でも、カフェオレだけで満足するつもりのときは、甘めの方が」
会社の敷地内から路地に出る。
細い路地を数十メートルほど進むと駅まで伸びる大通りにぶつかるから、通行人に気を付けながら左に曲がる。
すると、今まで左側を歩いていた松浦さんが、自然に私の右側に位置取りを変えるから、そういうところはさすがだなぁと感心してしまった。