オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
そういえば、思い起こしてみても、今まで松浦さんは私に車道側を歩かせたことがない。
たしかに松浦さんの容姿は整っているけれど、女性に人気が高いのはそれだけの理由ではないのかもしれない。
話題とか、聞き上手なところとか、一見軽く思われがちな、やわらかい雰囲気だとか。惹かれる部分はパッと思いつくだけでも、いくつもあった。
たった数回、一緒の時間を過ごした私がこうなんだから、他の女性が惹かれるのは当然に思えた。
車道を走る車のヘッドライトが等間隔で通り過ぎていくのを横目で眺めていると、ふとお昼休みのことを思い出す。
「松浦さんって、すごくモテるんですよね」
「ずいぶん急だけど……どうかした?」
キョトンとしたあと失笑され、お昼休みに見たテレビのことを説明する。
幸せオーラ全開の麻田くんと、不幸のどん底の麻田くんだったら、不幸どん底麻田くんのほうがモテるらしいという仮説を。
そのあとで「だから、モテる松浦さんって不幸なのかなと思って」と付け足すと、松浦さんは苦笑いをこぼした。
「それは……うーん、どうだろ。でも、幸せ全開って感じではないかな」
決して、謙遜したわけではなさそうだった。
車のライトに照らされた横顔には、微笑みが浮かんではいたけれど、なぜか儚く見え、そこに、さっきの松浦さんが重なる。
会社から出てきたときの、疲れた顔が。