オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「よく知りもしない、しかも悪い噂があるような男を、普通はそんな真面目に相手しないよ」
「そんなの、私だって別に真面目に取り合ってなんかいませんけど」
時には適当な相談相手として、時には八つ当たり要員として利用していたし……と言った私に、松浦さんは「じゅうぶん真面目だよ」と微笑む。
「もし俺が友里ちゃんの立場だったら、適当に相手するよ。相手の時間が無駄になろうが傷つこうが俺のせいじゃないし。
本気じゃない想いにいちいち真面目に向き合ってたって疲れるだけだろうし、それこそ自分の時間を無駄にしたくないって考えると思う」
「それをわかってて、なんでこうして付きまとうんですかね……」
私の立場になって考えられるなら、私が迷惑がってることだってとっくにわかっていただろうに。
冷たい眼差しを送っていると、松浦さんは「それはまた別の話」と、苦笑いを浮かべたあとで続ける。
「まぁとにかく、俺だったらそうなのに友里ちゃんは違う。俺のこと期待させないようにってちゃんと俺のために予防線みたいなもん張ってるし、顔合わせれば毎回律儀に〝好きじゃない〟って俺を否定する」
それは……だって、いくら松浦さんでも、期待させて傷つけたら、嫌な思いをするのは私だ。
だから自分のためでしかない、と主張するよりも先に、松浦さんが言う。
「俺のこと、心底うっとうしそうな顔するくせに、謝るためにわざわざコーヒーがぬるくなるくらい寒いなか待っててくれたり。友里ちゃんは、俺のすることにムキになったり怒ったり……いちいち反応してくれるから、一緒にいて楽しい」