オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
――自分の存在意義を、好成績でしか実感できなくなったのはいつからだっただろう。
褒められて選ばれないと、自分がまるで意味のないモノなんだと周りにバレそうで怖くなったのは、なにが原因だったのだろう。
追いかけて追い詰めて、他の男と俺との間で揺れる様子を見るのが好きだった。
他を見ていた子が俺を選んだ瞬間が気持ちいい。それは、暗に俺のほうが優れているんだと言っているようなもので、その優越感を得るのが堪らない。
けれど、そうして振り向かせた子にすぐに興味をなくす俺の恋愛スタイルは、他から見たら幸せなものではないらしかった。
『松浦さんって不幸なのかなと思って』
先週、あの子が言っていた言葉が頭をよぎった。
「おまえ、まだ大学の頃みたいな恋愛繰り返してんの?」
友達でもあり同期でもある北岡に聞かれ、曖昧な笑みをこぼす。北岡とは大学二年からの付き合いだから、付き合い自体は十年近くになる。
社員用通路を通り外に出ると、冷たい空気が襲いかかってくる。
きっと、あの子だったらマフラーを口元まで上げているところだろうと思い、自然と笑みがこぼれた。
時間は十九時を回っている。それでも、ノー残業デーでもない今日、この時間に会社を出られるのは珍しかった。
「とりあえず、今はしてない」と答えると、すぐに「じゃあ、今は何ならしてんの?」と聞かれるから、苦笑いを浮かべてから口を開く。
「片想いしてる子を見つけたから、こっち向かせようかと思ったんだけど、どうも成功の画が見えないから、今はとりあえず友達として信頼関係築こうとしてる」
「うーわ。最低だな、おまえ」
これ以上ないほどに顔を歪めた北岡は、軽蔑するような眼差しを向けた。
大通りに出て駅方面に向かって歩く。駅まで伸びる道は今日も通行人が多い。