不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
【序章】
街の中心部を外れると、道行く人もまばらになった。
柊まゆこは、顔を俯かせながらとぼとぼと力なく夜道を歩いている。
冷たさを増した秋の夜風が頬を撫でた。仕事を終えてようやく家路についた身には、そよ吹く風でも寒く感じて肩を竦める。
彼女のゆるふわセミロングの髪も風に揺れた。
黒髪というよりは褐色に近い。緩めのくせ毛なのは母親譲りだ。それがわずかな風で縺れてゆく。いまの自分の気持ちのように。
怒った表情をしていたが、本当はすぐにも泣きたい気分だった。
「泣くなんて。ダメよ。それじゃ」
独り言は癖だ。自分の耳にも入るから、こういうときは都合がいい。自分の言葉に励まされる――いわゆる、自家発電になるから。
唇を引き結んで顔を上げる。帰り道で泣きましたでは、あまりに弱い。
直属の上司になる室長補佐の叱責が脳裏を掠める。
『公共性が最重要の研究室だからといって、利益を生み出す要素がないと、企業は資金を出さないのよ』
彼女の言う通りだと思う。資金がなければ、その部門のラボは閉鎖される。
『理想だけではお金は出ないの。就職してまだ半年の新人だからといって甘えたこと言わないで。家庭菜園じゃないんだから』
柊まゆこは、顔を俯かせながらとぼとぼと力なく夜道を歩いている。
冷たさを増した秋の夜風が頬を撫でた。仕事を終えてようやく家路についた身には、そよ吹く風でも寒く感じて肩を竦める。
彼女のゆるふわセミロングの髪も風に揺れた。
黒髪というよりは褐色に近い。緩めのくせ毛なのは母親譲りだ。それがわずかな風で縺れてゆく。いまの自分の気持ちのように。
怒った表情をしていたが、本当はすぐにも泣きたい気分だった。
「泣くなんて。ダメよ。それじゃ」
独り言は癖だ。自分の耳にも入るから、こういうときは都合がいい。自分の言葉に励まされる――いわゆる、自家発電になるから。
唇を引き結んで顔を上げる。帰り道で泣きましたでは、あまりに弱い。
直属の上司になる室長補佐の叱責が脳裏を掠める。
『公共性が最重要の研究室だからといって、利益を生み出す要素がないと、企業は資金を出さないのよ』
彼女の言う通りだと思う。資金がなければ、その部門のラボは閉鎖される。
『理想だけではお金は出ないの。就職してまだ半年の新人だからといって甘えたこと言わないで。家庭菜園じゃないんだから』
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