不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「だ、だれっ、放してっ」

「私はジリアン・バーンベルグ。バーンベルグ家の現当主であり公爵の身分を持つ。次期国王候補の一人でもある。おまえの名は?」

 抑揚のない冷静さに満ちた声は、いっそ冷たく響いて、耳から身体の中心へすとんっと落ちてきた。

 ――ジリアン……! どこの国の人なの? 公爵? 次期国王候補?

 いつの間にか彼の両腕が身体に回っていた。次第に腕の強さが増してくる。

 初対面なのにと、まゆこはパニックになってのけ反る。

 初めて逢う女性にいきなり抱き着いてくる男は一種類だけだろう。

「放して! こ、の、痴漢っ!」

「ちかん? それは何だ?」

「あなたのことでしょうが! 相手の意志を無視して襲ってくるなら痴漢でしょ! 強姦魔でもいいわ! 放して……っ」

 なぜ痴漢の説明などしなければならないのか。

 納得できないといった感じっで、ジリアンの切れ上がった眉が寄せられ、腕が緩む。その隙をついて彼からばっと離れた。
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