不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 魔法陣の周囲には、ぽつぽつと人が立っていた。

 等間隔に立っていなかったので、比較的広く空いている方へ全速力で向かう。

 ホールにはいくつか開口部があり、先行きは廊下になっていた。そのうちの一つに入った。

 ずずっと奥へ伸びている廊下は、両側が窓になっていて明るい。

「……夜だったはずよね。どうして――」

 息遣いが早くなってくる中では、呟きも切れ切れになる。

 後ろにしてきたホールで、誰かが大きな声で『ジリアン様っ』と言った。まゆこはうしろをちらりと振り返り、恐怖で叫びそうになる。

 ――追いかけてくるっ。

 髪を靡かせ、ダッシュしてくるのは先ほどジリアンと名乗った青年だ。

 際だった表情も浮かばせず、『待て』も『止まれ』もなく、無言で追ってくる様子に恐怖を感じた。

 しかも彼は次第に速度を上げていたから、間が縮まってくる。

< 12 / 360 >

この作品をシェア

pagetop