不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 が、後ろには短ブーツの靴音が迫っていた。

 呆然とした体で眺望を眺めた彼女は、はっとして、手すりの端を背中側へ滑らせながら振り向く。頭の動きに比例して、髪が緩く弧を描いた。

 すぐ近くまで来ていたジリアンはピタリと止まった。彼女から、二・三メートルほど離れた位置だ。

 両肩を上げ下げして激しく息を吐くまゆこと違って、ジリアンはわずかに呼吸を早くしているだけだった。無表情に近い顔からはどんな意志も目的も窺えない。

 ジリアンのあとを追ってきた連中が、ばらばらとベランダへ出てきた。黒色の長衣を羽織っている姿から、ホールにいた者たちだと分かる。

 彼女は怖れを湛えた瞳で、ジリアンの後方にいる彼らを見た。どう考えても多勢に無勢だ。
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