不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「黙れ、ルース」

〈ルース〉は名前だろう。彼は言われたとたん、反論もせず、口を噤んで前へ出ようとした動きを止めた。

 まこゆが目線を前に戻せば、ジリアンは片膝を突いたまま右手を軽く左胸の上に置いた。心臓がある位置だ。

「驚かせてすまなかった。乱暴するつもりはない。名前を教えてくれないか」

 ジリアンの息遣いはすっかり整っている。いまだに早い動きで胸を上下させている自分とは大違いだ。

 ――夢? だとしても、礼を取ってくれたんだから名前くらいは伝えるべきよね。

 説明がほしいから敵対するのは避けたほうが無難、という考え方もある。

「柊まゆこ。あ、……マユコ・ヒイラギ、になるかな」

 彼は家の名前をバーンベルグと言い、『ジリアン・バーンベルグ』と名乗っていたので、同じ形で言い直す。
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