不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ジリアンはまゆこの肩を抱いて支え、その場を後にする。

「わたし、なにかいけないことをした?」

 眩暈までする。それを押して、肩を抱いて連れ歩いてくれる彼を見上げると、ジリアンはゆっくり、一言一言を噛みしめながら言う。

「おまえには魔法の力がある。しかも、かなり特殊な力だ。我々は、自然の気を利用して魔法を行使するが、おまえの力は、遠い山から手繰り寄せた魔法力を木々に分け与えたんだ。止まっていたこの森がまた動き出した」

「……覚えはないけど」

「無意識に発動した。魔法陣を使わないから、城の結界は警戒を発しなかった」

「魔法の力? じゃ、ジリアンの助けになる?」

 不意に歩みが止まる。城の内部へ入る直前だった。ジリアンはまゆこの両肩を両手でそれぞれ握り、非常に真剣な顔をして彼女を覗き込む。

「助けにはならない。いいか、おまえの力は、どこからか持ってきて、別なものに渡すというものだ。魔法陣がないから、気ではなく己の内側の力だけで動かした。己を消費しているんだ。自分を削って――大きな力ではないし、助けにはならない」

 がっかりしてしまった。これで少しは彼のためになると思ったのに。

「いいか、マユコ。力は使うな。そうだな。樹木にも、もう触るな」

「そんな」

「ウィズにいる間だけだ。それなら納得するか?」

「う……ん……。期間限定なのね。それなら」

 元の世界へ帰れば使えない力だ。元々ないものだった。まゆこはしぶしぶ頷く。
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