不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 部屋へ戻ると、マフを落としてきたのに気が付いた。

 エルマに言えば、取りに行ってきますと出かけてくれたが、『ありませんでした』と戻ってきた。

 気になるところだが、王城内では魔法による探査ができない。ジリアンはルースと協議して、騒ぎ立てるのもまずいだろうと結論を出した。

「ごめんなさい、せっかく用意してもらったのに」

「マユコ様。いまはお休みなさいませ。時間が空いたときを見計らって、皆で探しに行きます」

 にこりと笑って言ってくれた。エルマの言葉に従うことにする。

 ジリアンはまゆこをソファに座らせると、中間にあるドアから自分の寝室へ入った。

 彼にも休みは必要だ。バーンベルグ城からの道中は、ジリアンの力で飛んできたのだから。

 外から戻る途中で彼女を抱きしめたときから、ほとんどなにも話していない。

 まゆこはジリアンが怒っているのだと思った。魔法闘技が近いことで王城全体がぴりぴりしているのに、無意識とはいえ魔法を使ってしまったから。

 疲れ果てたまゆこは、食事の間での晩餐も遠慮して、寝室でサンドウィッチを少し口にするだけに止めた。

 湯を使い、着替えてベッドで横になる。早々に眠りに入っていった。
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