不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「トラックが……迫ってきて……」

 全体的にあいまいな夢だったが、もっとも怖い部分は覚えている。

 ジリアンは不思議そうに訊いた。

「トラック? なんだそれは」

「車。大型じゃなくて、中型の荷物車だった」

「車とは、なんだ」

 疑問符を載せたジリアンの声を聞いたまゆこは、ウィズに車はなかったことを思い出す。馬車はあっても、単体で走る〈車〉という概念そのものがなかった。

 ――ここはウィズで、トラックが迫ることはない。

 ようやく落ち着いた。ふぅ……と短く息を吐くと、彼に預けていた上半身を放す。顔を上げてジリアンの端麗な顔を眺めた。

 怒っていたと思ったが、少なくともいまは彼女を心配している。
< 216 / 360 >

この作品をシェア

pagetop