不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 いつの間にか失恋していたという状態はつらかった。ジリアンから離れてしまうという手段もあっただろう。バーンベルグ城に残るという選択もあった。

 けれどやはり近くにいたい。姿を見ていたい。声を聞いていたい。いずれは離れて、二度と逢えないのだから、いまだけは――と頑張るわけだ。

 エルマはそういうまゆこを見ていてくれる。

「それよりもエルマ。らしくなってきたわね。侍女頭への道をまっしぐらだわ」

「わたしが目指すのは、マユコ様付き筆頭侍女ですね。必死です」

「わたしもよ、必死。優雅で麗しい貴婦人への道は遠いわ」

 二人で笑い合う。

 侍女見習いだったエルマは、今回デイジーに侍女たちの統括を任されている。

 貴婦人見習いのまゆこは、とりあえずバーンベルグ公爵の婚約者として大きな失敗だけは避けたい。

 ――ジリアンはこの国の中心人物の一人なんだわ。王城へ来るまで実感できなかったなんて、わたしってなんて間抜けなの。

 ため息が出そうだ。
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