不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 元の寝室に戻ると、指示を待つ侍女に伝える。

「食べる物はいりません。着替えを先にしたいです。わたしが最初に着ていたものはどうなったのでしょうか。あの、し、下着とか」

 侍女らしき女の子は、とうとう顔を伏せてしまった。両肩が震えている。まゆこのたどたどしい様子に、笑いを堪えきれなかったらしい。

 最初よりは人らしい面を見た気がしてほっとした。

「マユコ様はジリアン様のお客様なのです。私共にそのようなお言葉遣いは必要ありません。ご用をお言いつけください。わたしや他の者がなんでもいたします」

「はぁ……」

「最初に着ていらっしゃったご衣裳は、ルース様がお持ちになりました。別な国のものだから、参考資料にしたいと言われまして」

「別な国……その通りだけど。ルース様というのは、ジリアンのうしろから追いかけてきた人?」

「追いかける……ですか。詳しい事情は存じ上げません。ジリアン様にマユコ様のお世話を申し付けられただけです。では、お着替えをお持ちします」

「はい……」

 事情が分からない。ここでの最高責任者であり最高権力者でもあるジリアンにきちんと説明されるまで、あまりしゃべらない方がよさそうだ。

 こういうときこそ、自分の臆病さ――周囲の人たちが言うには〈用心深さ〉――を役立たせるべきだろう。
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