不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ジリアンがいなくなると、まゆこは膝を折ってへたへたと座り込んでしまった。

 床は大理石なので非常に冷たい。止んでいた雪が、ちらりちらりと特別席の中へ入ってくる。

「ジリアンは北へ行ったのね」

「そうです。さぁ、マユコ様、立ってください。すぐにこの場から離れます」

 手を差し出したルースを不思議そうに見上げる。

「最後の挨拶があるでしょう? いなくなったら、失礼になるのではないの?」

 フォンダン公爵の挨拶だから、バーンベルグの席に誰もいないのはまずい。

挨拶の中で、きっと次の王はジリアンに決定したという言葉もあるはずだ。それを聞きたい。

 けれどルースは首を横に振る。

「ゆっくりしている暇はありません。王城の結界の中に戻らなければ危険です。ジリアン様が王に決まりましたが、まだ障壁の修復が残っている。実に不安定なときなのです」

 エルマも訴える。

「フォンダンとヴォーデモンが手を組んでいるなら、バーンベルグ家を断絶させるためにマユコ様を襲うのは十分考えられることです。婚約者様なのですから」

 まゆこはボックス席の中を見る。

 他の家のように、魔法力に遜色がない嫡男の兄弟や親類縁者などはいない。万が一にも魔法力で襲われたら防ぎようがなかった。
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