不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「分かったわ」

 立とうとしてふらつく。腰に力が入らない。

 そんなまゆこの背にコートが掛けられた。

 エルマかと思ったら、両脇で彼女を支えようとしているルースとエルマの替わりにテオがコートの襟もとを持っていた。

「ありがとう、テオ」

「はい。急ぎましょう。僕は、バーンベルグ家の馬車を誘導しておきます。正面よりも北の裏口の方が、人がいませんよね。ルース様、どうでしょうか」

「それでいい。外周の通路から北口へ向かう。北口の前広場に馬車を待機させておいてくれ。さほど待つこともないだろう。先に行け」

「はいっ」

 元気のいい少年……といっても十八歳だから、ゲルツ王国ではすでに成年になる。見かけが小柄で可愛いのでつい少年のような気がしてしまう。

 テオは、勢いよく特別席のボックスから出て行った。
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