不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「出口です」

 ルースが先頭だった。前方に通路分の開口部がある。古いトンネルの出口を思い出した。

 外は雪でも通路の中よりは明るい。しかしそれもすぐに翳るだろう。冬の陽は短い。

 あと少しというところで、前方で風が舞い上がった。声が響く。

「《我を望みの場所へ跳ばせ。サールディ!》」

 以前聞いたことがある魔法言語だ。これを使用したのは、輝くようなブロンドの持ち主で赤いドレスを好む美女だった。今日のドレスは鮮やかな青だ。

「カーラ!」

 顔を強張らせたルースが前へ出る。

「何の御用ですか。私たちは急いでおります」

「ルース。リンデン家の者というよりジリアンの臣下としてのあなたに伝えるわ。キスをしたのよ、ジリアンと。だから、彼は闘技で勝者になったの。わたしがあの人の〈ただ一人愛する者〉なのよ。分かった?」

 まゆこは息を呑んだ。顔がざぁ……と青くなる。

「惑わされてはいけませんっ」

 エルマがまゆこを庇うように前に立つが、まったく意に介さず、カーライルはまゆこを見ながら続ける。

「マユコが目障りなのよ。ジリアンは〈大切な客〉だから傷つけるなと言ったけど、消してしまえば傷も分からないわよね。塵にしてしてしまえばいいのだわ」

 赤い唇が薄く開く。

 フォンダン家の姫は、ぞっとするような微笑を浮かべてまゆこを睨みつけた。
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