不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
【第五章 決断】
 まゆこは左手の指輪を撫ぜた。

 この指輪ならジリアンに助けを呼ぶことができるだろう。

 彼が魔法力を全開できるようになってから造った指輪だ。前の指輪よりも威力が上がっているのは間違いない。

 手を上げて指輪を向ければ、カーライルの攻撃から確実にまゆこを守るはずだ。

 けれど、まゆこはジリアンを呼ばず、手も上げなかった。

 ジリアンはいま、大変なときかもしれない。彼の意識に繋がってしまっては邪魔になる。指輪の効力を使用するのは避けたかった。

 再度ルースが強く言う。

「前を開けてください、カーライル様。まゆこ様は王城へ戻られます」

「ふふ……。ジリアンの名目上の婚約者は、魔法闘技のときにいなくなるのよ。そう。客だもの。家へ帰ったことにすればいいわ」

 自分が〈ただ一人〉だと主張するにしては、カーライルはジリアンからなにも話されていない。

 まゆこの家がどこにあるかも、すぐには帰れないということも知らない。
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