不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 あてどなく景色を眺め続ける。やはり、元の世界とは違っている気がした。

 まずは空気が違う。澄んでいて、清い。

 ――静かだ。

 木の枝が揺れると、葉の擦れる音がなぜか歌のようにも聞こえた。

 ……ヒイラギはないのかしら。

 目に留まる範囲には見当たらない。

「乗り出すな。落ちるぞ。脱出用だから、窓もすべりがよくしてあって一瞬で開く」

 耳から入ってまっすぐ身体の中心へ落ちてくる声。

 突然、しかも背後から掛けられると吃驚もひとしおだ。

 まゆこは息を呑んで身体ごと振り返った。

 両扉がどちらも内側へ向かって開けられていた。扉の外は廊下になっていて、左方向と奥への二方へ向いている。

 扉が開いた空間の真ん中に、ジリアンが立っていた。

 初対面のときの白い装束は羽織っていない。

 落ち着いた色合いの上着と紫紺のズボンに短ブーツという出で立ちだが、一目見ただけでかなりの上質さを感じさせる。

 表情はどう見ても硬い。果たしてこの男は笑うのだろうかと疑問を持ってしまう。

 人を圧倒する雰囲気を纏っているのは、離れていてもひしひしと感じた。

 まゆこは両手を握りしめる。彼には訊かなくてはならないのだ。

 異世界に生きる自分を、なぜこちらへ引き込んだのか、と――。
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