不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 どれほどの間、唇を合わせていたのか、彼も無我夢中な気がした。とにかくほしいと訴えられている。まざまざとそれを感じる。

 まゆこの手が宙に浮くが、服を着ていない彼には捕まるところがない。

 かろうじて手が届くのが首元だった。縋り付く。

 顔中に口づけが降る。額に、頬に。頬は涙の跡が残っていた。顔を少しだけ上げたジリアンは、微笑しながら言う。

「しょっぱい」

「……は? え? キスの味が?」

 息を上げながら呟くと、ジリアンは楽しそうに笑う。そしてまゆこに口づける。

 唇の端に、耳に。そして首筋に。

〈しょっぱい〉というのは、まゆこの世界にある方言のはずだが、言葉が魔法で構成し直されて聞えているなら、そういう意味なのだろう。

 涙の跡なら、確かに塩っぽい。
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