不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 まゆこは首を横に振りながら、ため息のような吐息を漏らし続ける。彼の手がドレスのホックに掛かったような気がした。

 耳に落ちてきた唇が囁く。

「緊張しているな。私もだ。慌てないように、驚かせないように、必死だ。最初に謝っておくが、ただ一人を愛するとは、ただ一人にしか欲情しないということで……私は、こういうことをまともにするのは初めてなんだ」

 まゆこがうっすらと目を開けると、ジリアンは激しい劣情を瞳に湛えながらも困った顔をしていた。

 おまえがほしいと訴える情欲と共に、大切にしたいのだと主張するまなざし。

「我慢が聞かなくなりそうだ。……乱暴になったら、すまない」

 頷く。そして再び目を閉じた。これが返事になればいいと思いながら。
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