不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 滅びたと言われる一族だが、エルマの親族は残っている。

 終わらせるのは惜しい一族だとルースが言っていた。

「気にしていただきましてありがとうございます。ですがわたしは、結婚は考えていません。好きになった方が、そういう相手ではないので」

「え? 好きな人がいるの?」

 意外だ。

「誰なのか聞いてもいい?」

「……もう終わらせる気持ちですから、この場限りでお忘れください。……テオハルトです」

 囁かれた名前を聞いて、まゆこは仰天した。

 エルマはテオを好きなのかもしれない――と思ったこともある。

 身長差二十センチ、エルマは七歳年上。それがなに? ……と。恋する気持ちにそんなものは障害にはならないと考えた。

 テオハルトがベールを脱いで自分の本当の姿を晒したとき、エルマは彼を怪しいと思っていたから注意を払っていただけだと考え直した。

 ところが、違っていた。

 ――これが真実……。人の心は、外から見ているだけでは本当に分からない。

 遠くを見るまなざしをしたエルマの横顔には、切なさが滲み出ている。
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