不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「マユコ様を攫おうとした者です。敵であるのは変わらない。歪んだ思考の持ち主でもありますから、想いを寄せる相手としてはよくないですね」

 分かっていても惹かれてゆく。まゆこにも覚えのある気持ちだ。

 エルマは彼女を振り返り、明るく言う。

「テオはヴォーデモン城の地下室に幽閉されていると聞いています。もう二度と逢うことはないでしょう。恋かどうかも分からなかったのです。マユコ様にお話し致しました〈このとき〉をもって、終了にします」

「……エルマ」

 もはやなにも言えなかった。エルマには幸せになってほしい。

「それよりもマユコ様。ジリアン様との間はいかようにお進みですか」

「え、えっと。進むって、どういう」

「ルース様が、婚礼の準備をどのように進めようかと悩んでおられます」

「それは、わたしだけでどうこうできることでは……」

 ジリアンにしてもまゆこにしても、覚束ない恋は始まったばかりだ。牛歩でも速いと感じるほどの歩みで、互いの間を詰めている。

 できればそっとしておいてほしいのだが、そんな二人に構わず、周囲は盛り上がるばかりだった。

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