不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 まゆこはくすんと笑った。そこへ硬い声が入る。

「マユコと話すからしばらく誰も近づけさせるな」

 二歩ほど離れた位置に立っていたジリアンは、言葉を放った相手ではなく彼女をじっと見つめたままだ。

 紺碧の瞳から発せられる強い視線にあてられるようにして、まゆこは目を瞬いた。

 ルースがジリアンに答える。

「では、失礼いたします。マユコ様。どうぞごゆっくり」

「ありがとうございます」

 にこやかにほほ笑まれ、軽く会釈されたので、思わず同じようにして返した。

 部屋から退出するために廊下へ出る大扉へ向かうルースのあとを、小柄な侍従がついてゆく。侍従は、最後にちらりと彼女へ視線を飛ばした。

 グレーの瞳がもの言いたげに瞬いたと思ったが、気のせいだったかもしれない。
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