不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ――裾を踏んで窓から落ちた? ジリアンの魔法で助かった……んだよね?

 心臓がドキドキと踊り狂う。早い鼓動の加減で胸が激しく上下した。

 落ちてゆくときに窓が見えていた。そこから乗り出したジリアンの姿も見た。彼が叫んで、魔法が発動したのだ。

 座り込んだ状態であらためて見上げると、窓の高さに驚いてしまう。あそこから落ちて怪我一つないとは、魔法というのは本当に便利で不可思議な現象だ。

 いま、窓のところには誰もいない――と、ばたんっと扉が開けられる音がした。

 そちらへ顔を向けると、落ちた庭の奥、つき当たったところに横長の渡り廊下があり、中央付近の両扉が外へ向かって大きく開いている。

 そこから出てきたと思われるジリアンが、すさまじい形相で走って近づいてきた。

 大ぶりな両扉は勢い余った感じで全開になっていたが、他の者はいない。廊下の窓に誰かの姿がちらりと見えたから、もうすぐ他の者も現れるだろう。
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