不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ジリアンはすぐ傍まで来ると、勢いよく膝をついて彼女の顔を覗き込んだ。

 息が早い。全速力で来たのだ。魔法を使わなかったのは、たぶん、下にまゆこがいたからだ。

 ――すごい顔をして、走ってきた……。

 表情がない整った貌だったところに、困惑と必死さがありありと出ていた。

 ジリアンと目が合う。必死になってまゆこを気遣う紺碧の瞳に引き込まれそうだった。意識が、心が、丸ごと魅かれるこの感覚。初めての感覚。

「大丈夫か? 怪我はないか?」

 両肩を掴まれて早口で言われた。

 言われたとたん、浮遊していた心が現実に戻ってくる。

「大丈夫。痛いところもない。平気」

 ほぅ……と大きく息を吐いたジリアンは、彼女の両肩を掴んだままで顔を伏せる。全身から力を抜いたのが見て取れた。
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