不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ジリアンは嬉しそうだ。彼の心情が不思議なほどはっきり感じられる。だから余計に、素直な言葉を舌に載せていたのかもしれない。

「いきなり呼び寄せたんだ。それも合せて何度でも謝る」

 彼は再び両腕でまゆこを抱きしめた。

「少しだけでいい。こうしていてくれ。おまえは私にとって奇跡の存在だ。召喚しても誰も現れないと思っていた。本当にここにいるのかどうか、確かめたい」

 あ……と思った。

 ジリアンがホールで彼女を抱きしめたのはまさにこれが理由だったのだ。

 耳の近くで彼の声が聞こえる。

「魔法力を恐れて人が遠巻きする私の頬を打った。それだけ近くにいた。おまえは、まさに奇跡の存在だな」

 彼女はぱっと身を放す。間近にジリアンを見ながら顔を伏せがちにして話す。

「頬を打ったのは悪かったわ。打つつもりじゃなかったんだけど。でもね。わたしの世界では、異性を簡単に抱きしめたりしないの。手を握ったりもしないわ。特別な関係以外では、しない」

「そうか。肝に銘じておく。必ずおまえを守って安全に帰す。だからどうだろう、マユコ。こちらにいる間は気晴らしのつもりでいるというのは? だめか? ウィズ世界へきたことを後悔しないよう、できれば楽しく過ごしてほしい」
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