不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 そっと顔を上げてジリアンを見る。

 周囲は夕暮れから夜へ向かっている。太陽は西の山々の峰に隠れようとしていた。夕方の緩い風が彼女の髪を揺らせ、木々の葉がざわめく。

 ウィズ世界に包まれているのを体中で感じた。

『友達と飲みに行きたーい』と自分で言っていた。気晴らしがほしかったのだ。

 同じとき、同じ場所に戻るなら。

「そうする。ウィズ世界は自然の力が強いみたいだから、こちらの樹木に触れてみたい。ジリアンの魔法闘技も見たいし、城の中とか、いろいろ知りたい。特にドレス。もっと上手く裾さばきができるようになりたい」

「それは貴婦人教育を受けたいということか?」

「貴婦人を目指してみようという程度よ」

 ふふっと笑う。考えてみれば大層貴重な体験の真っ最中だ。
< 61 / 360 >

この作品をシェア

pagetop