不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「前のところでは、ウィズ世界みたいな仮想もあったのよ。まったく頭が追いつかないわけでもないの」

「仮想……か。興味深いな」

「あとは、わたしの身体がドレスとか、環境に慣れていくだけかな。最近はダンスの先生も来てくださるようになったから、運動もできているわね」

「踊るのが上手くなっていると聞いた」

 くすくすと笑う。ダンスの教師は『裳裾を翻すのが好きですね』と呆れていた。

 足さばきは、まだまだ下手だ。

「ジリアンが手配してくれたんでしょう? ありがと、ジリアン」

 豪華なコース料理に舌鼓を打ちながら言う。

 ジリアンは目線を泳がした。まゆこはその様子をじっと見ていた。助手とはいえ、研究をするときの目になっている。

 顕微鏡の先を細かく目で追っていたときは、長時間の凝視を必要とした。つい、そういうふうに微細な面まで見てしまう。

 そのせいか、二週間過ぎる間に、ジリアンの動きの少ない表情もなんとなく見分けがついてきた。

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