広い世界を見たいから
ほんとのこと
彼女は毎日笑顔だった。
俺が行くたび、いつも笑顔だった。
ゆき「そういえば、りょうた君、今度の冬休みはどこの国に行く事にしたの?」
りょうた「あぁ…んー、えーっと今回は行くのやめようかなって思ってる。」
ゆき「え!?どうして?」
りょうた「いや、今回、あんまりお金貯められなかったんだよね…」
嘘をついた。本当はもうチケットを買って予定していた。
12月26日シンガポール行き。
でも、聞いてしまった…彼女が同じ日に手術をうける事を…
行けない…そう思った。
そばにいたいそう思った。
だから…
ゆき「…うそつき。」
りょうた「え!?」
ゆき「もしかして、聞いちゃった?手術の事?心配して行かないって決めたの?」
りょうた「…いや…あの…」
ゆき「この前、病室で手術の話を担当の先生がしてくれた日からりょうた君、目がキラキラしなくなってたから」
りょうた「え?」
ゆき「大学の話や今まで行った国の話、これから行く旅行の話、いつも話をしてくれるときは目がキラキラしてたのに最近は全然キラキラしなくなってたし…タイミング的にもしかして…って。」
りょうた「…そっか…俺って分りやすいな…実はシンガポールに行くつもりだった…12月26日に…」
ゆき「12月26日か…なるほどね。」
りょうた「でも、行かないよ。ゆきちゃんが心配だから…そばにいたいんだ!!」
彼女は驚いた顔をした後に笑顔でこう言った。
ゆき「行ってきて!それで旅行の話を帰ってきたらまたして!私、その話を聞けるように手術がんばるから。」
彼女の声も目も力強くまっすぐだった。
りょうた「…わかった。めいっぱい、お土産話もって帰ってくるよ。」
俺はそう答えた。
ゆき「あ、もうひとつお願いがあるんだけど…12月25日の日なんだけど…」
ー12月25日の午前中ー
俺はびっくりした。
いつもパジャマ姿で待っている彼女が今から出かけるよ的な格好で待ってた。
すると…
ゆき「今から出かけるよ!」
りょうた「え!!?いや、でも…」
ゆき「大丈夫、大丈夫。行こ!」
りょうた「許可は?」
ゆき「とってないよ!でも、いいから!ね♪」
俺はなかば強引に連れていかれた。
そこは俺達の通ってる大学だった。
りょうた「なぜ、ここ?」
ゆき「いいから、いいから。」
彼女は楽しそうだった。
その日は特別な事をする訳じゃなかった。
彼女は大学のいろんなところに好きなだけ居続けた。
そんな彼女ははじめて会った時の顔と同じだった。
そして、最後に彼女にはじめて会った、彼女と昼ごはんに一緒に過ごしたあの場所に。
彼女は一段と優しい顔になった。
そして、少し時間が経ったとき…
ゆき「りょうた君。今日は強引に付き合わせちゃってごめんね。」
りょうた「びっくりしたけど楽しかったよ。ゆきちゃん、目がキラキラしてたよ。」
ゆき「本当?やった!少しはりょうた君に近づけたかな?」
りょうた「え?」
ゆき「…ほんとのこと言うね。ほんとは、りょうた君とどうしても話してみたくてここであんなお願いしたの。この場所にいるとりょうた君の声聞こえてきて、今まで行った国の話たくさんしてるのを聞いていつも世界旅行に行った気持ちになってた。この場所にいるだけで十分だったのにいつの間にかその声を聞かないとダメになってた。私の世界を広げてくれたのはりょうた君なんだ。ありがとう。それに夢だったんだ。この大学で1日中なんでもない時間を好きな人と過ごしてみたいって。」
りょうた「え?」
ゆき「せっかくだからクリスマスがいいなと思って…ごめんね。私のわがままに付き合わせちゃって。…そろそろ帰ろうか…」
帰ろうとする彼女に向かって俺は言った。
りょうた「俺も好きだ。ここではじめて見かけたときからずーっと、ずーっと好きだった。」
ゆき「…ほんと?」
りょうた「ほんと。俺はゆきが好きだ。」
そして、俺は力強く彼女を抱きしめた。
ゆき「…ありがとう。すごくうれしい。」
彼女は泣きながらそう言った。
りょうた「やっと言えた。」
ゆき「…名前(笑)」
りょうた「あぁ、ずっとそう呼びたかったから。嫌?」
ゆき「ううん。うれしい。ありがとう、りょうた。」
りょうた「名前(笑)」
ゆき「だって、私だって呼んでみたかったから(照)あ、旅行気を付けてね。」
りょうた「うん。手術がんばってな。そばにいられないけど…」
ゆき「私がそう望んだから。たくさん、旅行の話聞かせてね。」
りょうた「うん。」
俺にとってきっと人生で1番って言えるくらい最高なクリスマスになった。
ほんとの気持ちを言えて、ほんとの気持ちを聞けて本当によかった。