朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】


怖い笑みが在義さんから降渡に投げられた。


降渡はあははー、と空笑い。


降渡扮する『在義さん』が言っていた、『咲桜は私の娘です』という言葉は在義さん自身が発したものだ。


「あの……箏子師匠?」


「なんです!」
 

まだ気が収まらないのか、箏子さんは叫ぶように返して来た。


咲桜が思わずびくりと肩を震わせると、箏子さんは「あ……」と今の言動が失態だったように声をもらした。


「あ、の……困らせたわね。大きな声出して」


「い、いいえ……」
 

咲桜と箏子さんの間にぎくしゃくとした空気が流れる。


咲桜は困ると言うより、戸惑っていたんだろう。


ずっと箏子さんには、嫌われていると思っていたから。


俺としては、あの時見た箏子さんの瞳でなんとく感じていた。


俺の存在――咲桜の恋人そのものを赦さない瞳だったから。
 

咲桜が、握っていた拳を解いた。


「……箏子師匠」
 

そして、ゆっくりと頭を下げた。

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