朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
「今まで、色んなことを教えてくれてありがとうございました」
箏子さんを『師匠』と呼ぶ理由。
日常のマナーから護身術。お茶のたて方、華道の基本。どれも咲桜の軸になっているようだ。
「私、流夜くんがすきです。だから、お嫁に行きたいです。師匠にも、認めてほしいです」
咲桜の声は落ち着いていて、柔らかかった。
反して、箏子さんは悔しそうに顔を歪める。
「な、なんでこんなに早いんですかっ」
「先生。へそ曲がりも大概にしてくださいよ。そういう言い方ばかりするから、咲桜は嫌われると思ってしまったんでしょう」
在義さんに指摘されて、箏子さんは悔しそうに口を引き結んだ。
「……師匠?」
「あ、在義が認めた男性ならばと思っていましたが……ここまで狡猾(こうかつ)だと心配になりますよ」
「すみません。生まれつきです」
これも否定出来ないな。
「まあでも、だからこそ護れますよ? 色々から」
俺の言葉に在義が一つ肯いたのを見て、箏子さんは声を引いた。
「……帰ります」