朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
桃子母さん。長いこと、ここに向き合えなくてごめんなさい。
やっぱり、母さんの死を前にするのは怖かった。
最期に、どうして……私を一緒に連れて行こうとした、理由はわかってる。
でも、……辛かった。苦しかったよ……。
一緒にいっていればよかったって、何度思ったかわからないよ。
でも、生きてしまって。――生きたから、出逢えたんだ。
母さん、この人の姿が見えますか? 私の知る、誰よりも強くて、誰よりも優しい人です。
これからずっと、ずっと一緒にいるって、約束した人です。
「……桃子さんは、自殺ではないよ」
「…………え?」
「在義さんに、聞いた。咲桜から聞いたのが、桃子さんの最期じゃないんだ。咲桜の記憶にあるのとは数日経ってから桃子さんは、在義さんの腕の中で、言い方は少しそぐわないけど、老衰に似た亡くなり方をされたそうだ。咲桜が、眠っている間に」
「…………」
母さん?
「……そっか。……そうなんだ」
「うん」
流夜くんの手を、握り返した。
柔らかい、風が一つ吹いた。
……私たちの姿を見つめる影には、流夜くんすらついぞ気づかずに。