朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
靴を脱ぐのもわずらわしいような動作で脱ぎ捨て、私の指の先に触れた。
流夜くんはいつも、存在を確かめるように指先から触れてくる。
じんわりあったかい、流夜くんの手に包まれた。
「咲桜だ……」
感極まったような響きの声と表情は、学校での神宮先生じゃない。
過去でも今でもない。私の隣にいてくれた『流夜くん』だ。
「ごめん、勝手に押しかけちゃって」
「いや……。咲桜、一発殴ってくれないか?」
「なんで⁉」
いきなり過激なことを言われて驚いた。なんで殴る。
「現実感がわかない。たぶん俺、咲桜に逢いた過ぎて幻見てる」
本当に幻だと思われているみたい……。