朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
使い慣れたキッチン。
カップの位置も、茶葉の位置も変わっていなかった。
二人分の紅茶を淹れた。コーヒーより紅茶がいいと流夜くんに言われた。
たぶん、私が紅茶党だからだろう。
ローテーブルに設えられた足のないソファ。
流夜くんが私をそこへ招こうとするけど、私は突っ立ったまま動かなかった。
「咲桜? こっちに――」
「私も流夜くんにお願いがあるの」
言いかけたのを遮られたからか、流夜くんは一度瞬いたあと、「なんだ?」と促した。
私はソファに座る流夜くんの隣に膝をついて、ポケットに手を入れた。
「お願い……………私を殺して」
取り出したのは、カッターナイフだった。
「! 咲桜っ!」
流夜くんはすぐにそれを奪い取って部屋の隅に放り投げた。
そのまま、私の両腕を封じた。
「なに言ってるんだ、お前は」