朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】


俺の中で、揺らがなかったものがある。


咲桜の父親は在義さん、母親は桃子さん。


美流子のことや、宮寺が明かしてしまった科学的事実は、俺にとっては衝撃ではあっても問題ではなかった。


咲桜が非道く気にして、心を病むほどであったことの動揺の方がどれだけ強かったことか。
 

吹雪に言われた。「お前は何人いるの」と。
 

斎月と日本で再会したときにも言われていたことだが、基本的にぶっ飛んだことしかしない弟の性格の所為で欠片も気にしていなかっただけで、今までにも指摘はされていた。
 

今、神宮家事件の被害者遺族はいない。
 

生存が確認されている唯一の子ども――当時は赤子――『神宮流夜』を、今在る流夜(俺)は、きっと自分と解離(かいり)している。
 

そうしないと生きてこられなかったから? 


でもそれだったら、咲桜の出生に少しくらい動揺があってもいいはずだ。


俺の心が揺れたのは、咲桜の悲鳴にだけ。


あんな……今にも死んでしまいそうな声を、恋人から聞くことがあるなんて。

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